羊と鋼の森 著作 宮下奈緒
2016年 本屋大賞
2016年 キノベス! 第1位
2015年 ブランチブックアワード大賞を受賞した作品です。
本のタイトルの羊と鋼の森とは、ピアノの内部を表現しており、
ふとした調律師の出会いから、ピアノ調律に魅せられ、自ら調律師になった主人公の、
調律師としての日々を描いた作品です。
物語は、主人公の「外村」の、調律師としての生活を描いて淡々と進みます。
それほど大きな出来事もなく進んでいくので、
どんでん返しや、大きな山場などを期待する人には向かないかもしれません。
とても淡々としていても退屈ではなく、清々しく、『音』を感じる作品でした。
小説を読んで、主人公や登場人物が、勝手に喋り出したと感じることはありませんか?
それと同じくらい、ピアノの音が聴こえてくるようです。
雑味が取れて、調律でどんどん澄んでいくいく音色、
重い音から軽やかに解放されていく音色、
そんなピアノの音色が、本から飛び出して聞こえてくるようです。
小説という、文字から奏でられる音がここまで聞こえてくる本に出会えたのは、たぶんはじめて。
本を読んで、鼓動がどくどくと早くなるような静かな興奮を覚えたのは、久しぶりでした。
この物語の主人公は、小さい頃から楽器を習っていたわけでもなく、
音大を卒業したわけでもなく、
ほとんど音楽に無縁で日々を過ごしていました。
それがたった一度、高校の体育館に調律師を案内して、
その調律されていく様子を見ただけで、調律師になることを決め、その世界に飛び込みました。
運命的ともいう出来事から始まり、
音とは無縁だった生活から周りは音の専門家だらけの中で、
音を求めて成長していくひたむきさは、羨ましいとさえ感じました。
もしかしたら、初めから調律師を目指したから素直に成長できたかもしれない、
周りには音楽家を目指しながら、自分の限界を感じて調律師になった先輩もいる。
魔術師のように素晴らしい調律ができる、
尊敬を通り越して畏怖の念を感じるような大先輩もいる、
顧客の中でも自分の演奏の限界から、
きょうだいを支える道を選ぼうと、調律師を目指そうとする子がいる。
そんな中にあり、心にささくれを作らずに、成長し続けられる主人公の姿を、
綺麗事と捉える人もいるかもしれない。
ミュージシャン、画家、アーティストなどを目指しながら挫折した人には、
少し胸が痛くなるかもしれません。
私もまた、あることを諦めてしまっているので、
主人公の素直なひたむきさがまぶしくもありました。
物語の終わりの方に、
「まっとうに育ってきた素直な人」
と、主人公を評する言葉があります。
この本はまさにそういう小説です。
余談ですが、この本、ゴロウデラックスという番組で作者の宮下奈都さんが出演していて、その時の印象がとても良かったので、興味を持って読み始めました。
読み終わって、主人公の雰囲気に少し似ているなと思いました(笑)
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